天体写真撮影で必須の作業ともいえる「ダーク減算」ですが,実はダーク減算をするとライトフレームのノイズは増えてしまいます.
ダーク減算のこうした特性を知らずに不適切な画像処理を行うと,せっかくの綺麗なライトフレームが台無しになってしまうこともあるので注意が必要です.
今回のポイント
- ダーク減算を行うとライトフレームのノイズは増える
- そのためマスターダークは十分滑らかである必要がある
目次
ダーク減算のよくある誤解
上の記事でも軽く触れましたが,ダーク減算についてしばしば次のような誤解があります:
- ダーク減算でライトフレームのノイズを取り除くことが出来る
- ダークフレームの枚数はライトフレームの枚数に関係する
これらは間違いです.ではどう間違っているのでしょうか?
×間違い「ダーク減算でライトフレームのノイズを取り除くことが出来る」
これは完全に間違いで,ダーク減算はライトフレームのノイズを取り除くどころか逆に増やします.
○正解「ダーク減算でライトフレームのホットピクセルを取り除くことが出来る.また,ダーク減算を行うとライトフレームにマスターダークのノイズが加わる」
ライトフレームとマスターダークにはそれぞれノイズが含まれます.ノイズの含まれる物からノイズの含まれる物を引き算すると,ノイズは消えず,お互いのノイズが加わります.引き算をしているのだからノイズがキャンセルしそうな物ですが,そうはならないのです.
この理論的な側面については誤差の伝播の式をダーク減算の場合に適応してみると分かるが,本筋から外れるのでここでは詳しく話さない.
次の写真は1枚のライトフレームからダーク減算を行ったものです.
拡大画像を見ると,ダーク減算後はホットピクセルは消えていますが,
背景のざらつきは増えています.(少し分かりにくいかもしれません)
×間違い「ダークフレームの枚数はライトフレームの枚数に関係する」
上の正解1の話を踏まえると,ダーク減算を行うとライトフレームにマスターダークのノイズが加わるわけですから,マスターダークのノイズは出来るだけ少ない方がよいに決まっています.
○正解「ライトフレームの枚数に関係なく,ダークフレームは多ければ多いだけよい」
ダークフレームを出来るだけ沢山撮影してコンポジットすれば,より滑らかなマスターダークを得られるので,時間の許す限りダークフレームは沢山撮影した方がよいです.
×間違い「ダーク減算はカラー現像後に行ってもよい」
○正解「ダーク減算はRAWファイルに対して行わなくてはならない」
ダーク減算は必ずRAWファイルに対して行わなくては意味がありません.
これについては別記事で具体例を見ながら説明しています.
ダーク減算しない方がよいこともある?
ダーク減算はライトフレームからダークカレントを取り除くことが出来ます.つまりホットピクセルや熱カブリを取り除けます.
同時にダーク減算はライトフレームにマスターダークのノイズを加えてしまいます.
この両面を同時に考えると,ダーク減算をしない方がよいこともあり得ます.
例えば,ライトフレームは十分多数枚撮影したもののダークフレームはわずかしか撮影しなかった場合を考えましょう.この場合,ダークフレームをコンポジットして出来るマスターダークはノイズが多いものになるでしょう.この場合,ホットピクセルや熱カブリを除去するためにダーク減算をしてライトフレームのノイズを増やすよりも,ダーク減算をせずにライトフレームをコンポジットした方が写真のクオリティが高くなる場合があるでしょう.
次の写真は21枚のライトフレームについて,使用するダークフレームの枚数を変えてダーク減算したものです.
この例ではダークフレームの枚数が少ないので,ダーク減算をすると背景のざらつきがかなり増えてしまっています.
ホットピクセルの除去より背景のざらつきを押さえることを優先するならば,この例の場合ダーク減算しない方がよいかもしれません.
以上のことから,ダーク減算を行う際は十分長時間・多数枚のダークフレームを撮影し,ノイズの少ないマスターダークを使う事が大事です.
もし撮影したダークフレームが少ない等の理由でノイズの少ないマスターダークが得られない場合は,思い切ってダーク減算をしない方がトータルとして天体写真のクオリティが高くなる場合もあるわけです.
ダーク減算の際のノイズの振る舞いについてより詳しく知りたい方は,以下の記事で説明しています.
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