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ダークを引くと背景は余計荒れる?

天体写真撮影で必須の作業ともいえる「ダーク減算」ですが,実はダーク減算をするとライトフレームのノイズは増えてしまいます.
ダーク減算のこうした特性を知らずに不適切な画像処理を行うと,せっかくの綺麗なライトフレームが台無しになってしまうこともあるので注意が必要です.

今回のポイント

  • ダーク減算を行うとライトフレームのノイズは増える
  • そのためマスターダークは十分滑らかである必要がある

ダーク減算のよくある誤解

ダーク減算とは?

天体写真で必ずと言ってよいほど必要になるダーク減算処理.ここではダーク減算処理の原理と手順について説明します.今回のポイント ダーク減算処理の原理が分かる ダーク減算処理の目的が分かる ダーク減算処理の方法が分かるダーク減算処理の原理デジカメやCCDカメラは天体からの光を電気信号に変換して記録します.しかし,光が全く来ていない場合でも原理的に常にわずかな電流が流れ続けています.これを「ダークカレント(暗電流)」といいます.光が来ていない(暗い)のに電流が流れるので暗電流と呼ばれます.光が来ていよ...

上の記事でも軽く触れましたが,ダーク減算についてしばしば次のような誤解があります:

  • ダーク減算でライトフレームのノイズを取り除くことが出来る
  • ダークフレームの枚数はライトフレームの枚数に関係する

これらは間違いです.ではどう間違っているのでしょうか?

×間違い「ダーク減算でライトフレームのノイズを取り除くことが出来る」

これは完全に間違いで,ダーク減算はライトフレームのノイズを取り除くどころか逆に増やします.

○正解「ダーク減算でライトフレームのホットピクセルを取り除くことが出来る.また,ダーク減算を行うとライトフレームにマスターダークのノイズが加わる」

ライトフレームとマスターダークにはそれぞれノイズが含まれます.ノイズの含まれる物からノイズの含まれる物を引き算すると,ノイズは消えず,お互いのノイズが加わります.引き算をしているのだからノイズがキャンセルしそうな物ですが,そうはならないのです.

この理論的な側面については誤差の伝播の式をダーク減算の場合に適応してみると分かるが,本筋から外れるのでここでは詳しく話さない.

ノイズの計算 part 1

コンポジットやビニングを行うとS/Nが向上します.このカラクリについて詳しく説明します part 1今回のポイント 誤差の伝播の式でコンポジット後のS/Nが見積もれる コンポジットを行うとS/Nが向上する ビニングを行うとリードアウトノイズが減少しS/Nが向上する1. 天体写真の画像処理天体写真の撮影でカメラのCCD/CMOSの各ピクセルにはノイズが載っており,その量は分散$\sigma^2$や標準偏差$\sigma$で表されます.天体写真は画像処理の過程でダーク減算,フラット補正,コンポジット等,様々な演算を行います.それぞれの処理は画...

次の写真は1枚のライトフレームからダーク減算を行ったものです.
拡大画像を見ると,ダーク減算後はホットピクセルは消えていますが,
背景のざらつきは増えています.(少し分かりにくいかもしれません)

comparison

×間違い「ダークフレームの枚数はライトフレームの枚数に関係する」

上の正解1の話を踏まえると,ダーク減算を行うとライトフレームにマスターダークのノイズが加わるわけですから,マスターダークのノイズは出来るだけ少ない方がよいに決まっています.

○正解「ライトフレームの枚数に関係なく,ダークフレームは多ければ多いだけよい」

ダークフレームを出来るだけ沢山撮影してコンポジットすれば,より滑らかなマスターダークを得られるので,時間の許す限りダークフレームは沢山撮影した方がよいです.

×間違い「ダーク減算はカラー現像後に行ってもよい」
○正解「ダーク減算はRAWファイルに対して行わなくてはならない」

ダーク減算は必ずRAWファイルに対して行わなくては意味がありません.
これについては別記事で具体例を見ながら説明しています.

ダーク減算は必ずRAWファイルに対して行う

天体写真撮影で非常に大事なポイントであるダーク減算.ダーク減算はRAWファイルに対して行わなければ意味がないことを説明します.カラー現像後ではダーク減算の意味はないのです.今回のポイント ダーク減算は必ずRAWファイルに対して行う(カラー現像後ではダメ)ダーク減算はRAWファイルに対して行う「画像処理の正しい手順」でも書きましたが,ダーク減算はRAWファイルに対して行わなければ意味がありません.各ダークフレームをRAWファイルのままコンポジットしマスターダークを作成し,そのマスターダークをRAWライトフレーム...

ダーク減算しない方がよいこともある?

ダーク減算はライトフレームからダークカレントを取り除くことが出来ます.つまりホットピクセルや熱カブリを取り除けます.
同時にダーク減算はライトフレームにマスターダークのノイズを加えてしまいます.
この両面を同時に考えると,ダーク減算をしない方がよいこともあり得ます.

例えば,ライトフレームは十分多数枚撮影したもののダークフレームはわずかしか撮影しなかった場合を考えましょう.この場合,ダークフレームをコンポジットして出来るマスターダークはノイズが多いものになるでしょう.この場合,ホットピクセルや熱カブリを除去するためにダーク減算をしてライトフレームのノイズを増やすよりも,ダーク減算をせずにライトフレームをコンポジットした方が写真のクオリティが高くなる場合があるでしょう.

次の写真は21枚のライトフレームについて,使用するダークフレームの枚数を変えてダーク減算したものです.
この例ではダークフレームの枚数が少ないので,ダーク減算をすると背景のざらつきがかなり増えてしまっています.
ホットピクセルの除去より背景のざらつきを押さえることを優先するならば,この例の場合ダーク減算しない方がよいかもしれません.
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以上のことから,ダーク減算を行う際は十分長時間・多数枚のダークフレームを撮影し,ノイズの少ないマスターダークを使う事が大事です.
もし撮影したダークフレームが少ない等の理由でノイズの少ないマスターダークが得られない場合は,思い切ってダーク減算をしない方がトータルとして天体写真のクオリティが高くなる場合もあるわけです.


ダーク減算の際のノイズの振る舞いについてより詳しく知りたい方は,以下の記事で説明しています.

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