フラット補正処理とは?
天体写真で必要となるフラット補正処理.ここではフラット補正処理の原理と手順について説明します.
今回のポイント
- フラット補正処理の目的が分かる
- フラット補正処理の手順が分かる
- フラット補正処理の原理が分かる
フラット補正処理の目的
天体望遠鏡やカメラレンズで写真を撮ると,その写野内で明るさが一定になりません.この要因にはいくつか考えられます.
- 望遠鏡・カメラレンズの周辺減光
天体望遠鏡やカメラレンズには周辺減光という現象があり,写真の周辺部が中心部に比べて暗くなってしまいます.
次の写真は天体望遠鏡で撮影した画像を周辺減光の様子が分かりやすいように極端にレベル調整(明るさを調整)した画像です.
写野の四隅周辺部が暗く落ち込んでいるのが分かるかと思います.(真ん中に移っているのはM20という星雲です)
- カメラボディ内のケラレ
カメラボディ内でケラレが発生してしまい,その部分が暗くなってしまうことがあります. - CCD/CMOSにゴミが付いている
カメラ内部のCCD/CMOSセンサーにゴミが付いている場合,ゴミの部分が暗く写ってしまいます - CCD/CMOSの感度ムラ
CCD/CMOSには感度ムラがあり,場所によって感度(量子効率)にムラがあります.そのため明るく写る部分と暗く写る部分が出来てしまいます.
これらの要因が影響し,天体写真ではその写野内で明るさが一定になりません.望遠鏡やカメラ等の機材側の工夫でこれらの要因を完全に取り除くのは困難です.
そこで,画像処理によって写野内の明るさを均一にするのがフラット補正なのです.
フラット補正を行うと上の写真が次のように明るさが均一になります.
フラット補正処理の手順
- マスターフラットを作成
- ライトフレームを撮影したのと同じ撮影システム(望遠鏡・フィルター・カメラ等)で,何か明るさが一様の被写体を沢山撮影します.これをフラットフレームと言います.
私がよく使うのは空です.EL発光版や真っ白を表示させた液晶ディスプレイを使う方もいらっしゃいます.
(厳密には無限遠にある一様光源を撮影しなければいけないのですが,現実問題難しい場合はEL板等で代用されています) - フラットフレームを撮影したのと同じカメラ設定・露出時間・気温で,フラットフレーム用のダークフレームを沢山撮影します.これをダークフラットフレームと言います.
- 各ダークフラットフレームから事前に作成したマスターバイアスを減算(引き算)します.
- 3で作った各画像をメジアンもしくは加算平均でコンポジットし,マスターダークフラットを作る.
- 各フラットフレームからマスターバイアスとマスターダークフラットを減算(引き算)する.
- 5で作った画像をメジアンもしくは加算平均でコンポジットし,マスターフラットを作る.
- ライトフレームを撮影したのと同じ撮影システム(望遠鏡・フィルター・カメラ等)で,何か明るさが一様の被写体を沢山撮影します.これをフラットフレームと言います.
- バイアス減算,ダーク減算後の各ライトフレームをマスターフラットで除算(割り算)する.
フラット補正処理の原理
さて,フラット補正はどのようにして働くのでしょうか?その原理を説明します.
まず,上の手続きでマスターフラットを作成すると次のような画像が出来ます:
この画像は望遠鏡・カメラレンズからCCD/CMOSまで撮影に使ったシステム全体の写野内の明るさ特性を表しています.
中心部分が明るく,周辺部に行くに従ってだんだんと暗くなっています.これは使った望遠鏡・カメラレンズの周辺減光,カメラ内のケラレ,CCD/CMOSに付いたゴミ,感度ムラ全てを合算して,写野内の各場所で明るさがどのようになっているのかを表しています.
マスターフラット作成時に使ったフラットフレームはライトフレームと同じ撮影システムで撮影していますから,マスターフラットとライトフレームは同じ明るさ特性を持っているはずです.マスターフラットとライトフレームの明るさの不均一さは同じな訳です.このことを利用してフラット補正処理は行われます.
フラット補正では各ライトフレームをマスターフラットで除算(割り算)します.
画像内の数字はそれぞれの場所の明るさを表しています.
例えばのように割り算では同じ数字どうしで割ると1になりますから,ライトフレームをマスターフラットで割ると全体の明るさが1になり,全体が均一な明るさになるわけです.これがフラット補正処理の原理です.
天体写真では淡い天体を画像処理によって強烈に強調します.そのため,写野内の明るさがわずかでも不均一であると,強調処理の際にその不均一さが増幅してしまい,非常に見た目が悪くなってしまいます.そのため,天体写真においてはフラット撮影は非常に重要なのです.
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