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ノイズの計算 part 1

コンポジットやビニングを行うとS/Nが向上します.このカラクリについて詳しく説明します part 1

今回のポイント

  • 誤差の伝播の式でコンポジット後のS/Nが見積もれる
  • コンポジットを行うとS/Nが向上する
  • ビニングを行うとリードアウトノイズが減少しS/Nが向上する

目次

1. 天体写真の画像処理

天体写真の撮影でカメラのCCD/CMOSの各ピクセルにはノイズが載っており,その量は分散\sigma^2や標準偏差\sigmaで表されます.

天体写真は画像処理の過程でダーク減算,フラット補正,コンポジット等,様々な演算を行います.それぞれの処理は画像の各ピクセルのカウント値に対して以下の操作を行っています.

ダーク減算 ⇔ 引き算
フラット補正 ⇔ 割り算
コンポジット ⇔ 足し算(or平均)

元々のCCD/CMOSのピクセルに載っていたノイズはこれらの演算操作の元でどうなるでしょうか?ここではこれについて説明します.


2. 誤差の伝播の公式

結論から言うと,ノイズが各種演算の元でどう移り変わっていくかを計算する公式があります.

数理統計の分野で誤差の伝播と呼ばれる公式です.

誤差の伝播
ABC,・・・の測定値から計算の結果Uの値が求まる場合を考えます.
数式で書くと関数Fを用いてU=F(A,B,C,\cdots)と書ける状況です.
このときABC,・・・のそれぞれの測定値が標準偏差\sigma_A\sigma_B\sigma_C,・・・を持っている場合,\\計算結果のUの持つ標準偏差\sigma_Uは以下で求まります:


(1)   \begin{align*} \sigma_U = \sqrt{\left( \frac{\partial F}{\partial A}\right)^2 \sigma_A ^2 + \left( \frac{\partial F}{\partial B}\right)^2 \sigma_B ^2 + \left( \frac{\partial F}{\partial C}\right)^2 \sigma_C ^2 + \cdots} \end{align*}

(これは変数ABC,・・・間には相関が無い場合の公式である.天体写真に関する限りほとんどの状況でこの式で十分である.)

偏微分等があって少し難しいので,この式の使い方を具体的な場合を以下で説明します.

(数式を定性的に理解出来るイメージ図を挿入)


3. 円柱の体積に含まれる誤差

いきなり天体写真の場合について考えると難しいので,最初は定規を使って円柱の体積を求める例を考えます.

cylinder1定規を使ってこの円柱の半径rと高さhを測ったところ,それぞれ

(2)   \begin{align*} r &= 5.0 \pm 0.2 \text{[cm]}\\ h &= 8.0 \pm 0.1 \text{[cm]} \end{align*}

だったとします.ここで\pm 0.2\pm 0.1はそれぞれrhの測定時の偶然誤差(ノイズ)の標準偏差です.

円柱の体積はV=\pi r^2 \times hで求まるので,測定の偶然誤差を気にしなければ

(3)   \begin{align*} V &= \pi r^2 \times h\\ &= 3.14\times(5.0)^2\times8.0\\ &=682 \text{cm}^2 \end{align*}

と求められます.

しかし今の場合はこれでは不十分です.というのは,測定値rhはそれぞれ誤差を含んでいるので,それらを使って計算された体積Vにも誤差が含まれているはずです.その誤差の標準偏差を求めるのに誤差の伝播の公式を使います.

半径r,高さhから体積Vを求めることを考えているので,誤差の伝播公式中の文字はU=VA=rB=hC以降はありません.
公式中の関数U=F(A,B,C,\cdots)は,今の場合V=F(r,h)=\pi r^2 \times hです.
これを誤差の伝搬公式に代入すれば

(4)   \begin{align*} \sigma_V &= \sqrt{\left(\frac{\partial V}{\partial r}\right)^2 \sigma_r ^2 + \left(\frac{\partial V}{\partial h}\right)^2 \sigma_h ^2}\\ &=\sqrt{(2 \pi r h)^2 \sigma_r ^2 + (\pi r^2) \sigma_h ^2}\\ &=\sqrt{(2\times3.14\times5.0\times8.0)^2 \times (0.2)^2 + (3.14\times (5.0)^2)^2 \times (0.1)^2 }\\ &\fallingdotseq50.8 \text{cm}^2 \end{align*}

と体積Vに含まれる誤差を求めることが出来る.

従ってこれより体積V

(5)   \begin{align*} V &\fallingdotseq 682.0 \pm 50.8\\ &\fallingdotseq 680 \pm 50 [\text{cm}^2] \end{align*}

と誤差を含めて書くことが出来る.
(最後の式変形では有効数字を考慮して四捨五入を行っている)


長くなったので,次回に続く...


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