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フォトンノイズ(ショットノイズ)とは何か?

天体写真に混入するノイズの中で多くを占めるフォトンノイズ(ショットノイズ)について説明します.

キーワード

  • 光子(フォトン)
  • カメラの仕組み
  • 光電効果
  • ショットノイズ
  • ポアソン分布

まとめ

  • フォトンノイズはカメラの性能には関係いため,減らすことは出来ない
  • フォトンノイズは減らせないが,S/N比は向上させることが出来る
  • 取得画像のS/N比を向上させるには多くの光子を捕らえればよい

ショットノイズを理解するには光の物理の予備知識が少し必要になりますので,まずはそれを説明しましょう.

光は粒子としての性質を持っており,光の粒は「光子」(フォトン)と呼ばれます.我々の目で物が見えるのは,物体から飛んできた光子を目の網膜にある視細胞が捕らえるからです.

CCD/CMOSカメラでは天体から飛んできた光子を「光電効果」と呼ばれる物理現象を使って電子に変換し,その電子の数を電子回路で数えることによって場所毎の明るさの違いを認識します.より沢山の光子を捕らえれば明るく写り,少ない光子しか捕らえられなければ暗く写ることになります.

それでは本題のフォトンノイズ(ショットノイズ)について説明します.

天体からやってくる光子をCCD/CMOSカメラが捕らえることで天体写真を撮影することができるわけですが,実は天体から単位時間当たり[1]1秒間あたりにやってくる光子の数は常に一定ではありません.例えば,同じ天体を見ていても「ある1秒間では光子が100個やってきたが,次の1秒間では光子が103個やってきて,そのまた次の1秒間には光子が94個しか来なかった」なんてことが起きるのです.天体の明るさは1秒間にやってくる光子数として定義されますが,これはあくまで平均値であって,実際にある1秒間に何個光子が来るのかはその時々によってばらつくのです.この光子数のばらつきをフォトンノイズといいます.

このショットノイズはそもそも天体からやってくる光子の性質に関わるので,カメラの性能とは無関係です.つまり,どんなに高性能なカメラを使おうとも,画像処理で工夫しようとも減らすことは出来ません.

ここまでは天体からやってくる光子に対するフォトンノイズについて考えましたが,天体だけではなく,どんな光でも同じ現象が起こるため,地球大気の発光や光害(いわゆるSky光)や,フラット撮影の光源についても同じことが言えます.Sky光に対するフォトンノイズ,フラット光に対するフォトンノイズも存在するということです.


フォトンノイズそのものは減らすことは出来ませんが,シグナルとの相対比(S/N比)を大きくすることで見かけ上その影響を減らすことが出来ます.するとS/N比が向上し写真の見栄えは良くなります.それには次のような方法があります:

  • より大口径の望遠鏡を使う(点光源の場合)
  • より明るい望遠鏡を使う(広がった天体の場合)
  • より量子効率のよいカメラを使う
  • 総露出時間を長くする

これらの工夫によって天体からより多くの光子を捕らえることが出来れば
「フォトンノイズの絶対量は増えるが写真のS/N比は向上する」
となります.つまりノイズを相対的に小さくすることが出来ます.ノイズとS/Nの関係については別で詳しく説明します.


数学的に言えば単位時間当たりに天体や光源からやって来る光子数(N個/秒)は「ポアソン分布」と呼ばれる確率分布に従います.Nの平均値を<N>とすると,その数のばらつきは\sigma_N = \sqrt{N}で与えられます.つまり得られる光子数には典型的に\pm \sigma_N個のばらつきがのるのです.これがフォトンノイズです.

獲得する光子数Nを増やすとフォトンノイズは\sigma_N = \sqrt{N}なので,得られる写真のS/N比は

(1)   \begin{align*} S/N = \frac{N}{\sqrt{N}}=\sqrt{N} \end{align*}

となり,\sqrt{N}に比例して向上します.なので,光子の数Nを増やすように撮影をすれば良いのです.

References

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1 1秒間あたり